「紅麹」含有機能性表示食品等健康食品関連による健康被害について
今般の小林製薬株式会社が製造販売する「紅麹」をめぐる事態は、機能性表示食品である当該紅麹サプリメントを摂取した人が腎臓の病気、尿細管間質性腎炎、ファンコーニ症候群などを発症した問題で発覚しました。厚生労働省は、4月10日の時点で確認されているだけで、延べ221人が入院し、5人が死亡すると報じており、全国で関連する健康被害の訴えが相次いでいます。機能性表示食品は2015年から始まった制度で、特定保健用食品のように国による機能性・安全性の審査を受けることなく、企業が科学的根拠に基づいた機能性・安全性の情報を消費者庁に届け出る事前登録型の健康食品です。しかし、健康効果に預かる機能性を表示するからには、品質管理が重要であることは申し上げるまでもありません。
一方で今般の「紅麹」含有食品による健康被害については、紅麹自体の問題か、機能性に関与する成分(モナコリンK、ポリケチド)または原料製造過程で生じた物質等(シトリニン、プベルル酸、未知の物質)の問題かに分けて認識するべきと考えます。紅麹の機能性については、下記の文献も参考にしていただきたいと思います1,2)。健康被害のあった製品のロットを調べたところ、プベルル酸が含まれており、国立医薬品食品衛生研究所も確認したとのことですが、製造工程の違いでプベルル酸の検出量が異なるなど、プベルル酸が健康被害の原因物質であるかはさらなる検討が必要です。
健康被害を防ぐには、製品の品質確保が不可欠であり、原材料を含めたサプリメントのGMP(Good Manufacturing Practice 「適正製造規範」)による製造管理が重要です。また、健康被害の拡大を防ぐためには、健康被害情報の開示の遅延は避けるべきであり、腎障害関与成分の同定や因果関係の有無の証明には時間を要することを踏まえ、国民の健康を第一に考えて早い段階で何らかの情報開示がなされるべきであったと私どもは考えます。その上で、今回の「紅麹」含有健康食品関連による健康被害問題が、全ての健康食品・サプリメントの利用を否定するものではありません。販売後も品質を継続して確認できる仕組みをはじめとした製造・販売プロセスにおける安全性の確保、健康被害情報の報告義務化および消費者への情報提供の方法を含めた規則の整備など、今般の紅麹問題が正しく安全な健康食品・サプリメントの利活用に繋がるように注力することが、国民の健康を守るために大切であります。
医療従事者や販売者の方々におかれましては、「紅麹」製品について利用者から問い合わせがあった場合、回収命令が出されている3製品(「紅麹コレステヘルプ」、「ナイシヘルプ+コレステロール」、「ナットウキナーゼさらさら粒GOLD」)については、使用の中止を促し、体調に変化があるときは、医療機関の受診を勧めてください。その他の関連製品につきましては、企業各社で自主回収を行なっている製品もありますので、厚生労働省の「健康被害情報」サイト3)でご確認ください。また報道によりますと消費者庁では、有識者らからなる専門家による機能性表示食品制度の在り方を巡る検討会を開いて、当検討会の意見や消費者団体およびヒアリング内容を踏まえ、政府は2024年5月末を目途に制度の在り方の方向性を取りまとめ改善を図るようです。
この度の「紅麹」健康食品関連問題で健康被害にあわれた方々の1日でも早い回復をお祈りいたします。また食品機能性や健康食品に対する適切な理解の普及が進み、国民の皆様の健康をお祈り申し上げます。
令和6年(2024年)4月15日
日本栄養・食糧学会 代表理事・会長
吉田 博
参考文献
1. Cicero AFG, et al. Lipid-lowering nutraceuticals in clinical practice: position paper from an International Lipid Expert Panel.
Nutrition Reviews 2017; 75(9):731-776またはArch Med Sci. 2017; 13(5):965-1005
2.庄司哲夫、他.健常人を対象にした紅麹のコレステロール低下作用-ランダム化二重盲検群間比較による用量検索試験-。
日本臨床栄養学会雑誌 2008; 29 (4): 425-433
3.厚生労働省「健康被害情報」サイト
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/daietto/index.html