国際栄養科学連合(IUNS)について

第18期日本学術会議
栄養・食糧科学研究連絡委員会
委員長 安本 教傳

 (社)日本栄養・食糧学会と関係の深い国際的機関は、国際栄養科学連合(International Union of Nutritional Sciences、IUNS)と国際食品科学工学連合(International Union of Food Science & Technology、IUFoST)である。しかし、我が国の両連合への加盟の形態が異なっていて、そのちがいがそれぞれの母体連合への分担金の支払い方に端的に現れている。つまり、IUNSには日本学術会議を通じて加盟しているので国費をもってIUNSへの分担金を支払っているのに対して、IUFoSTには(社)日本栄養・食糧学会、(社)日本農芸化学会、(社)日本食品化学工学会、日本食品衛生学会、IFTジャパンセクションの5団体が構成する学会連合である日本国際食品科学工学連盟 (IUFoST Japan)、が、それぞれの学協会からの加盟費をもってIUFoSTへの分担金に充てている。したがって、それぞれに対応している国内委員会の組織も異なっていて、IUNSには日本学術会議栄養・食糧科学研究連絡委員会(委員長:安本 教傳)が、IUFoSTには日本国際食品科学工学連盟理事会(理事はそれぞれの所属学会が派遣;理事長:荒井 綜一)が対応している。本稿ではIUNSの現状について述べるが、次の機会にはIUFoSTについて記述するつもりである。

1.国際栄養学連合とは

1)IUNS設立の経緯

 国際栄養科学連合を設立しようとする構想は、1946年7月ロンドンにて、英国栄養学会が開催された折りに初めて議論された。その2年後の1948年6月、ロンドンにおいて開催された臨時国際委員会において、本連合の憲章と細則が論議され、本連合の設立目的を、a)情報交換、b)国際会議の計画、c)科学的研究成果の出版、とした。そうして、少人数の実行委員会が組織された。以来本連合の活動は順調に経緯して今日に至っている。設立の当初は国際会議の開催が主要目的としていたが、その後次第に長期計画ならびに効率的運営を必要とする種々の重要課題を取り上げるようになっている。
 本連合の総会は加盟国が指名した代表が構成する最高議決機関であり、理事会は総会閉会期間中の執行機関である。加盟国は、加盟国が選択した区分によって規定の数の代表を総会に出席させることが出来る。加盟国は各国のアカデミーその他の代表的な学術団体を通じて本連合に所属するものとしている。2001年10月現在で、本連合には70の正会員国・地域と1のオブザーバー国、13の関連団体が加盟している。

2)設立目的

 国際栄養科学連合の目的は、憲章の.本連合の目的より引用すると、

(1) 栄養科学およびその応用の研究における国際協力を推進する
(2) 国際会議・会合の開催、出版、その他適切な手段によって、栄養科学における研究ならびに学術情報の交換を促進する
(3) 上の(1)および(2)の目的達成のために必要な委員会、部会、その他の組織を設置する
(4) 他機関とのコミュニケーション手段を提供し、本連合が加盟しているICSUの活動への参加を促進する
(5) その他、本連合の目的達成に適切かつ有益な活動を行う
ことにある。                  

2.国内対応

1)加盟の経緯

 国際栄養科学連合(IUNS)へは1965年に日本栄養・食糧学会が我が国を代表して加盟した。1966年8月、ハンブルグ市において開催された第7回国際栄養学会議に、日本学術会議から満田久輝第7期会員(当時京都大学教授)と島薗順雄氏(当時東京大学教授)が派遣されている。1966年国際栄養科学連合が国際科学連合(ICSU)に加盟するに及んで、ICSUに加盟している日本学術会議が我が国を代表するIUNS加盟団体になって加盟分担金を負担し、今日に至っている。
国内対応委員会の名称は日本学術会議栄養・食糧科学研究連絡委員会(National Committee on Nutrition and Food Science)で、第17,18期は安本教傳日本学術会議会員が委員長を務めている。

2)国内で開催された国際会議

 (1)第10回国際栄養学会議

 1975年京都市にておいて、第10回国際栄養学会議を開催した。66カ国から総数
3,000名(内正会員2,300名)が参加した。同会議の主要役員の氏名(当時の職名)は以下の通りである。

会長 越智 勇一(日本学術会議会長)
副会長兼組織委員長 満田 久輝(京都大学教授)
副会長 大磯 敏雄(国際医師連盟理事)
事務総長 金森 正雄(京都府立大学教授)
プログラム委員長 吉村 寿人(京都府立医科大学名誉教授・兵庫医科大学教授)
総務委員長 安本 教傳(京都大学助教授)

 (2)第4回アジア栄養科学会議

 UNSの地域組織であるアジア栄養学会連合 (Federation of Asian Nutrition Societies, FANS) の支援のもとに大阪市にて開催された。会長は井上五郎(徳島大学名誉教授)、副会長は田中武彦(大阪大学教授)が務めた。
 FANS 結成の経緯やFANS会議を招致した経緯については、(社)日本栄養食糧学会 編「食を楽しみ健やかに生きるために」p.350-352, 光生館、1997 が詳しい。

3)日本人役員

 1966年8月、ハンブルグ市において開催された第7回IUNS総会において、島薗順雄氏がIUNS副会長に選出された(任期:1966年-1972年)。1975年8月に京都市にて開催された第10回国際栄養学会議の副会長であった大磯敏雄氏が1978年から1981年の間IUNSの理事を務めた。その後、田中武彦氏(当時大阪大学教授)が同じく理事を1985年−1993年までつとめた。1997年カナダ国モントリオール市で開催された総会では、従来とはことなる役員の選出方法が採られた。指名委員会の推薦に加えて、総会席上において各国代表が役員候補を推薦することが認められ、この方法によって推薦された小林修平氏(当時国立健康・栄養研究所所長)が、投票の結果理事に当選した。2001年オーストリア国ウィーン市で開催された総会でも同様の方法が採用されたが、小林修平氏は当選しなかった。

3.最近における国際栄養学連合の動き

1)事業及び活動の実施状況

 1998年3月に開催された理事会において、部会、委員会の任務とその存続について1999年末までに見直すこととした。2001年8月総会では、21世紀委員会の提言にもとづいてCommission を廃止することにして、新会長は各種委員会を見直し、「エコ栄養」、「長期健康」、「栄養と技術革新」、「感染症および食源性疾病抵抗性」、「文化依存性基準の調和」などのTask Forces に再編成することとしているが、2001年10月31日現在詳細はなお未定である。

2)定款・規則改正

 諮問委員会「21世紀委員会」の答申に基づいて、理事会が多数決にて決議した定款の主な改正点は以下の通りである。なお、新役員は改正定款に基づいて選出された。
理事会の構成変更:会長、次期会長(副会長)、副会長、事務総長、財務委員、理事6名、合計11名とする。議決権のない前会長,前事務総長は新理事会の会期初年度のみの理事会構成員とする。
 カテゴリーの項目削除:カテゴリー、分担金額ともに定款から削除して、別規則とする。
 常設諮問委員会「財務委員会」を解散する。

3)組織

 2000年8月、ウィーンで開催された総会にて、「21世紀委員会」の答申に基づいて、組織、財政などについての大幅な変更案が採択された。その主なところは以下のごとくである。

 (1)運営組織

 総会は通常4年に1回開催される国際会議会期中に開催され、本連合の活動を総括する最高議決機関である。役員(会長、次期会長(兼副会長)、副会長1名、事務総長、前会長、及びその他の6名の理事)が構成する理事会(カウンシル)が、総会が開催されるまでの間の執行機関である。役員は総会で選出される。役員候補者の名簿は、指名委員会が作成し、事務総長を通じて総会に提示する。

 (2)主な役員

 2001年8月開催の総会(ウィーン市)にて、以下の役員が選出された。いずれも任期は2001年〜2005年の4年間である。

会  長 Prof. Mark Wahlqvist (オーストラリア)
次期会長 Dr. Richard Uauy(チリ)
副会長 Dr. Philip James(連合王国)
事務総長 Dr. Osman Galal (エジプト)
財務役 Dr. Claus Leitzmann (ドイツ)
前会長 Dr. Barbara A. Underwood(米国)
理  事 Prof. Lindsay Allen (英国)
理  事 Prof. Tola Atinmo (ナイジェリア)
理  事 Prof. Dr. Ibrahim Elma Elmadfa (オーストリア)
理  事 Prof. Dr. Keyou Ge (中国)
理  事 Dr. Juan Rivera (メキシコ)

 事務局  Dr. Osman Galal
      Department of Community Health Services
      School of Public Health, UCLA
      Box 951772
      Los Angeles, California 90095-1772、USA
      Fax: (1-310) 794 1805
      Tel: (1-310) 206 9639
      e-mail:
ogalal@ucla.edu
 URL:
http://www.iuns.org/ 及び http://www.monash.edu.au/IUNS/

 本連合のホームページが2カ所にあるが、いずれもこの1年間弱アップデートされていない。記載内容が古く、両ホームページの間で記載内容に混乱があるので、適切な情報源になっていない。事務局は後者の削除を主張している(事務総長補佐からの私信)。

4)財政・予算・分担金の改定

 分担金が主たる収入源であるが、その他にICSU、UNESCO、UNU、UNICEFよりの補助金を得ている。1997-2000年の収支決算の結果(米ドル)は、収入 267,566、支出 276,278の赤字になっているが、2001年12月31日の収支決算(米ドル)は、収入 235,660、支出 179,320になるものと予測されている。
 2001年8月開催の総会において、各国の分担金が2002年1月1日より、改正されることになった。我が国の場合、分担金は年間3,000米国ドルであったが、これが6,000米国ドルになった。
 これに対して、総会開催前から分担金改正の根拠と収入増加分の予定使途(予算案)の呈示、分担金額算出の根拠について疑義のあることを申し入れていた。その結果、算出根拠など、いくつの点で改められたが、理事会原案が一部修正の上可決されたのであった。
 他の連合や学会運営上の参考に資するために、分担金改正の経緯や、分担金額算出の根拠などについての概要を以下に記載する。
 変更の理由:栄養科学連合は、1988年以来加盟費を改訂していないために、理事会開催回数を2年に1度にして旅費支出を削減している。新基準によるカテゴリー変更によって、当連合の活動を強化する分担金収入を増加し、開発途上国を主とする分担金長期滞納国の負担軽減を図る。
 算出の根拠:従来の7カテゴリーを6カテゴリーに改め、それぞれのカテゴリーをICSUの基準に準拠した以下の計算式によって求めた新基準によって分類し直し、それぞれの負担金を定めた。
  新基準=[人口(百万人)]×[GNP(千米国ドル/人)]×[栄養学強度]
ここで[栄養学強度]={[栄養学者係数]+[栄養学論文数係数]}/2とし、いずれの係数も、1=きわめて少ない、2=少ない、3=かなりの数、4=多い、5=大変多い、の五段階で評価したものである。その結果、日本のスコアは127x23.6x(4+4)/2=11,990で、世界第2位に位置づけられた。なお一位は米国の39,420、第3位は中国の11,600である。

5)国際会議

(1)第17回国際栄養学会議 (17th International Congress of Nutrtional Sciences) 
       (URL: http://www.univie.ac.at/iuns2001/ ) 

 オーストリア国ウィーン市オーストリア・センター・ウイーンにおいて、8月27日−同月31日まで開催された。8月31日現在で、参加者の総数は3,365名(他に280名の同伴会員)で、内日本人参加者(登録者)510名(同伴会員数不明)、米国人参加者(登録者)260名(同伴会員数不明)で、日本人参加者(登録者)は米国を抜いて第1位であった。
 しかし日本人参加者が会議に果たした役割は決して高いものではなかった。日本人/全員で日本人参加者の比率を計算してみると、Plenary Lecture 0/7、特別講演0/2、Keynote Lecture 2/160,Short Communication 24/442、で残りはポスター発表 207/1833にとどまった。その学術的な内容は21世紀の栄養科学を目指したものが多かったにもかかわらず、国際的評価は必ずしも高くなかった。最大の参加者でありながら、少なからぬ参加者が、会議場に滞在し、討論に参加した時間よりも市内および市外の観光スポットその他の場所で過ごした時間の方が長かったものと推察される。
 なお、会議出席の報告が、EiShoku News! vol. 2001-10 (5)(2001年10月10日、10月3日付メール)に記載されているので参照されたい。

(2)第18回国際栄養学会議(2005年):

 本会議は2005年9月19-24日、南アフリカ連邦共和国ダーバン市にて開催される。会議招請団体は、南アフリカ国際栄養学連合加盟団体(南ア栄養学協会、医学研究会議、南ア栄養学会、南ア経管経腸栄養学会)となっているが、組織委員長などの役員は未定である。本会議についての連絡先は以下の通りである:
  準備組織:Nutrition Safari for Innovative Solutions
  名称:Nutrition Safari 2005
  所在地:Private Bag X6001, POTCHEFSTROM 2520, South Africa
  E-mail
vgetan@puknet.puk.ac.za
  URL: http://www.iuns.org/conferences/18icn-2005.htm

(3)第19回国際栄養学会議(2009年)開催国

 立候補していたイスラエル(エルサレム市)、タイ国(バンコック市)について投票の結果、総会はタイ国(バンコック市)を開催国に決定した。その結果、第19回国際栄養学会議は2009年11月30日-12月4日までの6日間、タイ国バンコック市バンコック国際貿易展示センター (Bangkok International Trade and Exhibition Centre) にて開催の予定である。

(4)第9回アジア栄養科学会議

 2003年2月23日−同月27日まで、第9回アジア栄養科学会議がインド国ニューデリー市にて開催される。
  会 長 Dr .C Gopalan
  連絡先  IX Asian Congress of Nutrition
Nutrition Foundation of India
C-13 Qutab Institutional Area,
New Delhi -110 016 INDIA
Tel.: 91-11-6857814,6962615
Fax.:91-11-6560106,6857814
E-mail:
acn2003@yahoo.com
URL: http://acn2003india.net/

4.その他

 学術連合を統括してきた国際科学連合が、最近になって個別領域の学術連合に加えて各国アカデミーやサイエンス・カウンシルを構成メンバーとするようになった。一方、近年になって、InterAcademy Panel (IAP)やInterAcademy Council (IAC) のように国や地域を単位とする学術連合体が結成されている。このような動向は、情報化、国際化が急速に進行する中で、従来型の個別科学ごとに形成された連合体の存在意義が問い直されているのであろうし、ひいては関連国内学会の組織にも影響を与える可能性がある。
 なお、国際栄養科学連合を含む国際学術団体の動向については、日本学術会議が毎年3月に刊行している「国際学術団体及び国際学術協力事業―XXXX年度報告」が新しい情報を提供している。

日本栄養・食糧学会ホームページへ http://eishoku.bcasj.or.jp/

第18回国際栄養学会議(2005年9月南アフリカ)のホームページへ
http://www.iuns.org/conferences/18icn-2005.htm

第9回アジア栄養学会議(2003年2月インド)のホームページへ
http://acn2003india.net/