会員のみなさまへ

日本栄養・食糧学会 会長(平成22・23年度):石田 均

日本栄養・食糧学会:石田 均

この度、本学会の新たな会長に就任いたしましたので、この場をお借りして会員の皆様方にご挨拶申し上げます。矢ヶ崎一三前会長と同様に、引き続き宜しくお願い申し上げます。

本学会は創立以来すでに60年以上の歴史を有し、その間一貫して栄養科学ならびに食糧科学に関する学術面とその応用について広く社会に発信するとともに、知識の相互交換や情報の公開化を進めてきました。そして栄養科学、食糧科学の進歩普及を図り、わが国における学術の発展と国民の健康増進に寄与することを目的として、広く社会に開かれた公益性のある活動を行なっています。

私は内科医の一人として、30年余り糖尿病をはじめとする「生活習慣病」の診療に携わって来ました。その間、いまだ大学を卒業したばかりの研修医の頃には、糖尿病の患者数は多く見積っても100~150万人程度でしたが、昨年の推計ではすでに890万人となり、糖尿病の一歩手前の人々(1320万人)と合わせると実に2210万人、すなわちわが国の約6人に1人が治療もしくは予防の対象となっています。そして重要な点として、この増加の背景には現代社会での食生活の変化が大きな役割を果たしていることにもはや疑いの余地はありません。

そもそも日本人の食生活には欧米の人々とは異なり、農耕民族としての性格が色濃く反映されており、穀物や野菜、果物そして魚介類が食事の中心であったと思われます。その中で日本人の体質に合った「和食」が創作され、インスリン抵抗性の原因となる肥満を回避することで膵β細胞からのインスリン分泌を節約していたと考えられます。

しかしながら、文明開化にともなう食生活の欧米化が交通手段の進歩による運動不足と相まって肥満を助長させ、近年の糖尿病患者数の急激な増加をもたらしています。とくに日本人は遺伝的に膵β細胞が脆弱であり、わずかな肥満にともなうインスリン抵抗性の増大が糖尿病の発症に関与します。この事実は裏を返せば、食生活の改善によりインスリン感受性が少しでも回復すれば、糖尿病にならずに済む人々も多いことを意味しています。

したがって、私達の栄養・食糧学の分野には、「生活習慣病」の予防や病態の進行を阻止する食品やその成分の同定はもとより、栄養指導による食事内容や食生活の改善による疾病の予防に関する臨床的なエビデンスの迅速な確証が求められています。

この様にわが国の環境は、かつての「不足の栄養・食糧学」から、いまや「過剰の栄養・食糧学」へと大きく変遷してきている訳ですが、一方で世界には主に経済的な理由から栄養失調による死が依然として存在することも事実として報道されています。そこで学術面での国際交流を今まで以上に深めることで、人類全体の持続的発展を可能とする必要があります。地球をとりまく環境問題とともに食糧問題やエネルギー問題などの諸問題の解決に資する調査研究の実施が期待されています。私達の日本栄養・食糧学会では、これらの問題を究明し解決するために、医学、農学、薬学、生活科学、健康科学、理工学などの関連する諸学術領域の研究者が共に連携を深めながら、情報交換、研究協力を着実に進めております。

以上の社会的責務を本学会が遂行し、そしてさらなる発展を果たすために、短期的ならびに中期的に行なわなければならない課題がいくつかあります。その中の一部をここに紹介させて頂きます。

まず本学会のみならず全ての学会に関わることですが、2008年(平成20年)12月1日に施行された「公益法人改革関連法」に基づき、学会は従来の法人(特例民法法人)から2013年(平成25年)11月末までに新しい制度に移行することが求められています。現在、理事会の下に新法人化への移行に関するワーキンググループを発足させ、専門家の意見も伺いながら公益社団法人への移行に向けて、学会の新しい定款や組織の変更、移行申請のための日程調整などの点も含めて検討を進めています。

折しもこの7月22日の日附で内閣府特命担当(行政刷新)の蓮舫大臣から、「1つでも多くの法人の皆様に、時期を失することなく公益認定にチャレンジしていただきたい」という思いからのメッセージが、内閣府からのお知らせとしてホームページに発出されています。政府として、現在事業仕分けを通して国からの補助金や天下り役員を受け入れている一部の法人に対し厳しくあり方を問い直す一方で、公益法人に本来期待される「民」による公益の増進には積極的に応援するとの方針が出されています。平成20年度から進めている各支部や学会誌編集業務の収支に関する会計の一本化も、円滑な移行のためのガバナンス強化の一例です。新法人化の件は、学会にとって当面の最重要課題となっています。

次に学会の国際的活動についてお知らせすることがあります。この度、従来からの懸案であった2015年(平成27年)のアジア栄養学会議(12th ACN)の日本への誘致が決定致しました。2009年(平成21年)10月にタイで開催されました FANS (Federation of Asian Nutrition Societies)の会議にて評決がなされました。場所としてはパシフィコ横浜での開催が決定し、5月中旬での日程の調整が進められています。

また、これに呼応する形で数年前から国内大会において海外からの演者も交えた英語によるシンポジウムを行なっており、これからも定期的に開催していく予定です。これらの国際交流活動は公益の増進に資するところが大きいことから、今後とも積極的に取り組みたいと思います。また国内の他の栄養学関連の学会との交流につきましても、これまで以上に関係を深めることで、公開シンポジウムなど社会的な面からも公益性の高い活動を展開して参りたいと存じます。

多くの関連する諸学術領域の連携の下、さらに円滑なる学会運営を目指す所存です。近年の経済状況の低迷もあり、学会を取り巻く状況には決して予断を許さない面もありますが、それだけになお一層気を引き締めて会長としての職務を遂行致したいと存じます。 

今後とも会員の皆様のご支援とご協力をお願い致します。 

過去の会長のあいさつ