会長あいさつ
会員のみなさまへ
公益社団法人 日本栄養・食糧学会 代表理事・会長(令和4・5年度):吉田 博
わが国においては2020年に始まった新型コロナウイルス感染症は2022年の今においても終息せず、人々の暮らしや社会情勢に影響し続けています。そのなかで2022年6月には久し振りに現地で学会大会が開催され、その第76回大会のテーマは「ポストコロナの未来を拓く栄養科学・食糧科学研究のあり方」でした。まさしく私たちが現在抱えている重要なテーマを活発に議論できたことを嬉しく思いますし、会頭および大会関係者、学会事務局そして学会員の皆様に感謝申し上げます。
これまでの2年間は加藤久典前会長のリーダーシップのもとコロナ禍のなか本学会は的確に社会情勢に対応し、国民への栄養食糧と健康に関するメッセージ「新型コロナウイルス感染症への栄養面での対処~日本栄養・食糧学会からのお願い~」を発信し、2021年12月には東京栄養サミットでは、栄養課題の解決に向けて持続可能な開発目標(SDGs)の推進に資する議論などが行われ、その成果として東京栄養宣言「グローバルな成長のための栄養に関する東京コンパクト」が発出されました。そこには1 健康:栄養のユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)への統合、2 食:健康的な食事の推進と持続可能な食料システムの構築、3 強靱性:脆弱な状況や紛争下における栄養不良に対する効果的な取組、4 説明責任: データに基づく説明責任の促進、5 財政:栄養の財政への新たな投資の動員、などが掲げられています。
日本栄養学学術連合として本学会のコミットメントとしてはSustainable Healthy Diets(持続可能性のある健康な食事)に関する研究の推進において、エビデンスに基づく栄養改善研究を一層進めて、その実践に向けた若手人材のグローバルな育成のためのプログラムの実現に取り組むことを表明しています。また2022年12月には東京国際フォーラムにて第22回国際栄養学会議(22nd ICN)が開催され、ICN東京の成功に向けて組織委員長である加藤前会長とともに私も募金委員長として取り組んでおります。たとえコロナ禍にありましても学会員の皆様のお力添えにより必ずや素晴らしい学術会議となると期待しております。
2022年には記念事業が開催され、本学会では創立75周年記念事業の一環として、第76回大会の際に75周年記念講演会等が開催され、日本医学会の門田守人会長をはじめ関連する各学会等からのご祝辞を頂戴しました。また今後には75周年記念誌の発刊に向けて準備を進めております。本学会が分科会として活動しています日本医学会は120周年を迎え、その日本医学会創立120周年記念誌のなかでも本学会の歩みが報告されています。日本栄養・食糧学会は、終戦間もない昭和22年に国民の栄養状態の改善とそのための食糧の研究を目的として発足しました。学会創立50周年記念誌をみると、食糧事情の悪化に伴う国民の低栄養状態にどう対処するか、GHQの助言を受けながら、医学・農学を中心とする学際的な立場から対策を検討する場として、本学会が設立された経緯が詳細に記録されています。そこには敗戦の食糧難から国民を救おうとする強い焦燥感が伺われます。そして、第1回栄養・食糧学会大会を担当した慶応大学医学部の大森憲太会長は、「医学と農学の結婚」という表現を使い、「大同団結をもって重大難関を突破する」といった鬼気迫る挨拶をしておられ、当時の本学会に託された使命に対する自負とともに重い責任を担う覚悟が感じられます。
しかし、その後の我が国の栄養事情は、大きな変貌を遂げることになり、昭和30年代以降は高度経済成長期を迎え、栄養過多に由来する肥満が健康上の問題となって、「成人病」といった名前が登場し、今でいうところの生活習慣病そのものです。そして近年、メタボリックシンドローム、糖尿病、高血圧症、脂質異常症などが増加し、その対策が国家的な課題になるに至り、わが国では2018年12月に脳卒中・循環器病対策基本法が制定されました。「脳卒中と循環器病克服第一次5ヵ年計画」の検証・振り返りが行われ、現在は第二次5ヵ年計画が策定され、生活習慣病等は今もなお国民の重要な健康課題ですが、これらの基本的な対応は食事・栄養などの生活療法であり、その基盤となる科学は言うまでもなく本学会の栄養・食糧学です。また一方では健康寿命の延伸が人々の健康とともに健全な社会にとって鍵であり、そのなかでは高齢者のフレイル・サルコペニア・ロコモティブシンドローム対策が重要となります。かかる意味から本学会の栄養・食糧学基金の研究助成テーマはまさしく、「生活習慣病、フレイルの予防と治療に関する栄養・食糧学的研究」および「健康寿命の延伸と新たな健康課題の解決に資する食品開発に関する研究」であります。
日本栄養・食糧学会は発足以来、日本人の食の改善を通して国民の健康を増進することを目指し、栄養学の科学的研究の拠点として、その使命を全うしてきました。このような栄養を巡る困難な社会情勢の中で、本学会の果たすべき役割は、今後より一層大きなものになっていくと考えています。代表理事・会長就任にあたり、本学会の活動が人々の健康的な暮らしと健康長寿に役立つように、持続発展的に活動して歩んでいくことを決意しますとともに、皆様のご協力とご高配を何卒よろしくお願い申し上げます。